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シルバー人材センターでの就業がフレイル発生リスクを軽減
75~84歳の全国追跡調査の結果より~

ダ イ ヤ 高 齢 社 会 研 究 財 団  研 究 部 長  博 士 ( 医 学 )  石 橋 智 昭

75歳以降も働きながら健康寿命を延ばす

高齢化の先端を行くわが国では、住み慣れた地域で人生の最後まで自分らしい暮らしを続けられるよう、医療・介護・介護予防・生活支援・住まいを一体的に提供する「地域包括ケアシステム」の構築を進めています。
 

柱の1つである生活支援の担い手として期待されているのが、元気な高齢者の存在です。これには、人材不足分野への労働力確保だけでなく、担い手となる高齢者自身の介護予防や生活の質の向上にもつなげるという相互利益の考えが込められています。
 

こうした理想を全国規模で体現しているのが、“生きがい就業”を理念に掲げるシルバー人材センター(以下、SC)です。SCは、これまで労働面(マンパワー供給)と、福祉面(居場所づくり)の両面で地域に貢献してきました。近年、会員の半数が後期高齢者となったことに伴い、
「働くことで健康寿命を延ばす」という介護予防分野での貢献にも大きな期待が集まっています(図1)。

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本格的な全国調査の実施

こうした中、全国シルバー人材センター事業協会は、全国から75~84歳の地域高齢者とSC会員を抽出して、2年間追跡する「シルバー人材センター会員等の介護予防効果の検証事業」を企画しました(図2)。
筆者の所属するダイヤ財団がその調査研究の実務を受託し、高齢期の就労に精通した学識経験者で構成される研究委員会(表)を中心に、研究デザインと調査票の設計を進めました。

 

本調査では、全国9ブロックの都市規模別人口の分布に基づき、52市区町村を選定(図3)。75~84歳の地域高齢者とSC会員をそれぞれ抽出しました。調査票の配布・回収は、対象地区のSCが担当し、2022年に初回調査、2024年に追跡調査を実施しました。初回調査の回収率は95%と非常に高く、地域高齢者1,392人、SC会員2,095人から回答を得ることができました。

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フレイルの新規発生率に着目

地域において介護が必要な人は、何歳頃から増えるのでしょうか。介護保険制度は65歳から利用可能ですが、実際に要介護認定を受ける人が2割を超えるのは80歳を過ぎてからです。したがって、75歳以降の後期高齢者はまさに介護予防を意識すべき年齢層であり、会員の半数が後期高齢者であるSCにとって、介護予防は重要な接点となっています。
 

介護予防のメインターゲットとして注目されているのが、健康な状態と要介護状態の中間に位置する「フレイル(Frailty)」です(図4)。
フレイルは健康寿命の終わりに近い状態ですが、適切な対応により再び「健康」に戻れる可能性が高いことが特徴です。そのため、 「健康からフレイルへの移行防止」と「フレイルから健康への改善」が介護予防の重要課題となっています。

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今回の研究では、元気な高齢者を対象としているために、 「健康からフレイルへの移行」に注目して、“2年後のフレイル発生率”をアウトカム指標に定めました。

ただし、地域高齢者とSC会員を比較する研究には次のような課題があります。

SC会員はもともと意欲が高く元気な人が多いため、数年後のフレイル発生率が低かったとしても、「SCでの就業の効果ではなく、最初から健康だっただけではないか」という指摘を免れません。
したがって、介護予防に対する就業の効果を証明するためには、比較対象となる地域高齢者との初期状態の偏り(専門用語では“バイアス”と呼ぶ)の補正が不可欠です。

本研究では地域高齢者と似た属性のペアをSC会員から選定するため、あらかじめSC会員の調査対象人数を多めに設定しています。

就業の効果を明らかにするための工夫

初回調査(2022年)の結果では、地域高齢者とSC会員の属性に明確な違いが見られました。

地域高齢者は独居者がやや多く、治療中の疾患や主観的健康観、睡眠の質といった健康状態が相対的に低い傾向にありました。
一方でSC会員は、経済状況への満足度が低く、地域や近隣との交流もやや少なめで、食生活や飲酒・喫煙などの健康習慣が地域高齢者より悪い傾向にありました。

こうした多種多様な属性の違いを調整するため、本研究ではフレイルの関連要因から20項目を選び(図5)、それらを1つの変数に統合した「傾向スコア(PropensityScore)」を活用しました。

傾向スコアとは、関連要因の組み合わせから、 「地域高齢者とSC会員のどちらに属しやすいか」を確率で表したものです。
例えば、地域高齢者に区分される確率は、 「独居者・疾患が多い・経済状況に満足・飲酒しない」人では75%、 「同居者あり・疾患少ない・経済状況に不満・飲酒する」人は20%といった具合です。
各個人で算出された確率値(傾向スコア)を地域高齢者とSC会員で順に並べて、その値の近い人同士をペアとしてマッチングさせます。
この手続きにより、就業の有無以外の属性を揃えた(バランスさせた)状態で、地域高齢者とSC会員のフレイルの発生率を比較することが可能になります。

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SCでの就業がフレイル発生リスクを34%軽減

分析対象者は、初回調査と追跡調査の両方に回答した人のうち、初回調査で「健康」に区分された1,354人(地域高齢者477人,SC会員877人)です。
ここから、傾向スコアによるマッチングによって441組(地域高齢者とSC会員441人ずつ)のペアを生成しました。
マッチングされた441組におけるフレイル関連要因の値は、20項目すべてで有意差が無くなっており、地域高齢者とSC会員の初期状態の偏りが適切に補正されていることが確認できました。
これにより、就業の有無に焦点を当てて、地域高齢者とSC会員のアウトカムを比較できる状態が整いました。

 

最終的な分析結果を示します。2年後のフレイルの発生率は、地域高齢者の13.8%に対して、SC会員は9.1%と有意に低いことが示されました(図6)。
このことは、地域高齢者のリスクを1.0とした場合、SC会員は0.66となり、就業によってフレイル発生リスクが34%軽減されることが明らかになりました。
この結果は学術誌にも掲載され、後期高齢期の就業が健康維持に寄与するエビデンスの1つになりました(引用文献)。

今回の全国調査によって、後期高齢期のシルバー人材センターでの就業がフレイル発生に一定の抑制効果を持つことが示唆されたと言えるでしょう。

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フレイルの多面性と就業の効果

今回の分析では、なぜ就業がフレイルの発生を抑制するのか、その具体的なメカニズムは明らかにできていません。仮説として、後期高齢期に就業を続けるメリットには、以下のような効果が考えられます。
フレイルには、運動・栄養・口腔機能の「身体的側面」、うつや認知機能の「精神・心理的側面」、独居や経済的困窮などの「社会的側面」など多様な側面があります(図7) 。これまでのフレイル予防は、筋力トレーニングや体操、栄養教室など身体面へのアプローチが中心でした。しかし、高齢者の5人に1人はひとり暮らしであり、周囲との関わりが乏しい「社会的孤立」の状態で暮らす人も増加しています。現状では、孤立の解消を望む人々へのサービスは十分とはいえません。

適度な就業の機会が得られれば、仕事を通じて仲間との交流や地域とのつながりへと広がり、フレイルの「社会的側面」にも貢献できる可能性があります。さらに、3つの側面は相互に影響するため、仕事を通じたコミュニティへの参加は孤独感やうつのリスクを軽減し、頭を使いながら適度な運動を行う仕事であれば、認知症予防など「精神・心理面」にも有効に働くと考えられます。
 

わが国の高齢者の就労意欲は高く、2024年には75歳以上の就労率が12%に達しました。今後も働き続ける後期高齢者は増加すると見込まれており、無理のない安全・安心な働き方の探索と、その健康維持効果に関する研究の蓄積を進めていきたいと考えています。

【引用文献】

石橋智昭,森下久美,土屋瑠見子,上原桃美,渡辺修一郎.
シルバー人材センター就労会員と地域高齢者における2年間
のフレイル発生割合;全国50地点の75~84歳を対象とした
コホート研究.日本健康医学会雑誌34巻3号, 2025.

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【お問い合わせ先】

公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団研究部

〒160-0022 東京都新宿区新宿1-34-5 VERDE VISTA 新宿御苑 3F

プロジェクト責任者:石橋智昭

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